見えない敵に狙われる広告費~「アドフラウド」という新たな詐欺の正体~

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「ネット広告に月30万円かけているのに、なかなか成果が出ないなあ」そんな悩みを抱えている企業の方、もしかするとその広告費の一部が、知らないうちに詐欺師の懐に入っているかもしれません。今、世界規模で「アドフラウド」と呼ばれる広告詐欺が急拡大しており、その被害額はなんと年間12兆円にも上ると言われています。一体どんな手口で、私たちの広告費が狙われているのでしょうか。

アドフラウドって何?

「アドフラウド」とは、「Advertisement(広告)+ Fraud(詐欺)」を組み合わせた造語で、インターネット広告に関する詐欺行為の総称です。

簡単に言うと、実際には人間が見ていない・クリックしていない広告なのに、見られた・クリックされたように偽装して広告費をだまし取る手口です。

例えば、こんなケースがあります。

  • ボット(自動プログラム)を使って大量の偽クリックを発生させる
  • 生成AIで作った低品質なサイトに広告を掲載し、広告料を稼ぐ
  • 違法サイトや偽情報サイトに企業の広告を掲載して収益を得る

企業側から見ると、「広告を出しているのになぜか効果が出ない」「クリック数は多いのに売上につながらない」といった現象として現れることが多いようです。

被害規模の深刻さ

この問題の深刻さは、その被害規模を見れば一目瞭然です。

世界の被害規模

  • 2023年:約842億ドル(約12兆3000億円)
  • 2028年予測:1723億ドル(約2倍に拡大)
  • ネット広告費全体の2割以上が詐欺の被害

国内の被害規模

  • 2024年:約1510億円(3年前から4割増)
  • ネット広告費の平均5.1%が被害
  • 業界別では金融業界が14.3%、通信業界が11.1%と特に高い割合

中には、広告費の5割以上がアドフラウド側に流れていた企業もあるそうです。これは本当に深刻な問題ですね。

巧妙化する手口

アドフラウドの手口は年々巧妙化しています。特に最近目立つのが以下のような方法です。

1. ボットによる偽クリック 自動でクリックを繰り返すプログラムを使って、大量の偽クリックを発生させます。広告費の多くはクリック数に応じて支払われるため、この偽クリックで広告費をだまし取ります。

2. 生成AIによるサイト量産 「ラーメンの食べ歩き」「ニュースまとめ」といった一見普通のサイトを生成AIで大量に作成し、そこに広告枠をたくさん設置。サイトの内容は適当で質が低いものの、SNSなどで宣伝して閲覧者を呼び込みます。

3. 違法・偽情報サイトでの広告掲載 違法コンテンツや偽情報を掲載するサイトに企業の広告を表示させ、その広告料で運営資金を得ます。企業にとっては、自社の広告が怪しいサイトに掲載されるリスクもあります。

なぜ取り締まりが困難なのか?

これだけ大きな被害が出ているなら、なぜ警察は犯人を捕まえないのでしょうか?実は、アドフラウドの取り締まりには大きな困難があります。

仕組みの複雑さ 現在のネット広告は、広告主と掲載サイトの間に広告代理店や多数の仲介業者が関わり、自動で瞬時に大量の取引が行われています。このため、「どの段階で詐欺が発生したか」を立証するのが非常に困難なのです。

国際的な犯罪 犯人が海外にいることが多く、ドメインやアカウントをころころ変えるため、追跡が困難です。

個別の被害額の小ささ 一つ一つのサイトでの被害額は比較的小さいため、訴訟費用に見合わないケースが多いのです。

専門家はこれを「稼ぎやすく、捕まりにくく、生成AIを使って簡単に実行できる『低リスクの犯罪』」と指摘しています。

ネット広告急拡大が背景に

アドフラウドが拡大している背景には、ネット広告市場の急成長があります。

2024年の日本のネット広告費は3兆6500億円と過去最高を更新。これは広告費全体の5割近くを占め、もはやテレビや新聞を大きく上回っています。

ネット広告が人気な理由

  • 単価が安い
  • 細かいターゲティングが可能
  • 効果測定がしやすい
  • 24時間いつでも配信可能

でも、お金が大量に流れるところには、必ず犯罪者も集まってくるものです。しかも、生成AIの普及で詐欺の手口がさらに巧妙化・大規模化しているのが現状です。

企業はどう身を守るべきか?

では、私たち企業はどうやって自社の広告費を守れば良いのでしょうか?

1. 信頼できる広告代理店との取引 実績があり、アドフラウド対策に詳しい代理店を選ぶことが重要です。

2. 定期的な効果測定と分析 クリック数に対してコンバージョン率が異常に低い場合は、アドフラウドの可能性を疑いましょう。

3. 広告掲載先のチェック 自社の広告がどんなサイトに掲載されているか、定期的に確認することが大切です。

4. アドフラウド対策ツールの活用 専門の対策ツールを導入することで、怪しいトラフィックを検出・除外できます。

5. 多様な広告手法の組み合わせ ネット広告だけに頼らず、従来の広告手法とのバランスを考えることも大切です。

中小企業こそ注意が必要

特に中小企業の場合、限られた広告予算を効率的に使いたいと考えるのが当然です。でも、だからこそアドフラウドの被害は深刻になります。

月20万円の広告予算のうち5万円がアドフラウドの被害に遭っているとしたら、実質的には25%も予算を無駄にしていることになります。これは見過ごせない損失ですよね。

知識と警戒心が最大の防御

アドフラウドは「見えない敵」です。被害に遭っていることに気づかない企業も多いのが現実です。

でも、知識を持って警戒していれば、被害を最小限に抑えることができます。「最近、広告の効果が薄いな」と感じたら、単に「ネット広告は効果がない」と決めつけるのではなく、アドフラウドの可能性も疑ってみてください。

デジタル時代の新しいリスク

アドフラウドは、まさにデジタル時代ならではの新しいリスクです。便利で効果的なネット広告の裏側で、こうした見えない犯罪が横行している現実があります。

でも、恐れすぎる必要はありません。適切な知識と対策を持っていれば、ネット広告の恩恵を受けながらリスクを最小限に抑えることができます。

大切なのは、「こうしたリスクがある」ということを知っておくことです。そして、自社の広告費が適切に使われているかを定期的にチェックすることです。

今回に限らず「プロに任せているから大丈夫」ではなく、「プロにやってもらい、確認は自分達も行う」ということが大事ですので、自分達を、そして自分達の会社をしっかり守りましょう!

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この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。