「グエー死んだンゴ」という言葉が、数千万円の寄付を生んだ

今日は、インターネットで起きた感動的な話をしたいと思います。

10月14日、X(旧Twitter)に「グエー死んだンゴ」という8文字だけの投稿がされました。この投稿が、3億回以上表示され、数千万円規模の寄付を生むことになったんです。

「グエー死んだンゴ」とは何か

まず、この言葉について説明しますね。

「グエー死んだンゴ」は、2010年代にインターネット掲示板「なんJ(なんでも実況J)」で生まれたネットスラングです。死の間際の断末魔をコミカルに表現したもので、主に「死ね」とか「お前が死ぬんやで」といった暴言レスに対して、煽ったり茶化したりする返信として使われていました。

つまり、本来は軽いノリで使われる冗談の言葉なんです。

そして、この言葉に対する返しとして定番なのが「成仏してクレメンス」という言葉です。これもなんJ発祥のネットスラングで、「成仏してください」という意味を、ふざけた言い方にしたものです。

普段なら、こういう言葉は軽いやり取りやネタとして使われます。でも、今回は違いました。

22歳の若者が遺した最後のメッセージ

この投稿をしたのは、北海道大学に通っていた中山奏琉(かなる)さん、22歳でした。

中山さんは、希少がんの一つである類上皮肉腫という病気と闘っていました。年に20例ほどしか観測されない、極めてレアながんだったそうです。2023年10月に診断を受けて以来、背中の筋肉と肋骨が無くなるほどの大掛かりな手術や度重なる抗がん剤治療を経ても、ユーモアを交えた飄々とした語り口でがんと向き合い、XやNoteで発信を続けてきました。

中山さんのXのプロフィール欄には「かわいい女の子が好きです。あと癌です」と書かれていました。こういうところにも、彼のユーモアが感じられます。

10月10日、中山さんは「多分そろそろ死ぬ」と投稿して以降、更新が途絶えました。そして10月12日の夜、静かに息を引き取りました。

翌13日、アカウントを預かっていた友人が訃報を投稿しました。

そして、10月14日午後8時ちょうど。中山さんのアカウントから「グエー死んだンゴ」という投稿がされたんです。

生前に予約していた投稿

投稿時刻が午後8時00分00秒ピッタリだったことから、これは中山さん本人が生前に予約投稿していたものだと分かります。

おそらく、存命のうちは投稿を予約しては取り消すを繰り返し、自分が予約投稿を取り消せなくなった時、つまり本当に死んだ時に「グエー死んだンゴ」が投稿される、という仕組みだったと推察されています。

末期がんの苦痛、若くして死ぬ恐怖と無念さ。そんな中でも、最期までフォロワーを笑わせようとした彼の行動に、多くの人が感動しました。

「成仏してクレメンス」が溢れたリプライ欄

この投稿を見たXユーザーたちは、なんJ流のやり取りに従って、「成仏してクレメンス」と書き込みました。

普通に考えたら、人が亡くなった時の追悼の言葉としては不謹慎に感じられるかもしれません。でも、今回に限っては「最もふさわしい追悼の言葉だ」という声が相次ぎました。

中山さん自身がネットスラングでユーモアを持って最期のメッセージを残した。それに対して、同じ文化を共有する人たちが、同じようにネットスラングで敬意を表した。これは、とても美しいコミュニケーションだったと思います。

リプライ欄は「成仏してクレメンス」で溢れました。そして、この投稿は3億回以上表示され、7万回以上リポストされ、84万いいねを記録しました。

「香典包んだンゴ」で寄付が広がる

そして、さらに素晴らしい動きが起こりました。

「香典包んだンゴ」と称して、がん研究や治療に携わる団体や病院に寄付をする動きが広がっていったんです。

中山さんが入院していた北海道がんセンターへの寄付は、10月14日から31日の間に1078件、計412万円。2024年の同時期は0件で、年度を通じても0件だったそうです。

公益財団法人がん研究会への寄付は、約2千件で計約1千万円。

NPO法人日本小児がん研究グループには、2週間で約800件、計300万円を超える寄付。

国立がん研究センターへの寄付件数は10月半ば以降、2万件以上。5日間で2万件を超える寄付があったという計算になります。

さらに驚いたのは、基礎研究を支援する大隅基礎科学創成財団(横浜市)にも寄付が相次いだことです。10月26日から31日までに個人からの寄付は約1460件、計約710万円。2024年度の個人寄付件数は年間で400件弱だったそうなので、いかに異例のことか分かります。

朝日新聞の取材では、関連する寄付総額は数千万円規模にのぼっているそうです。

ノーベル賞受賞者も驚き

大隅基礎科学創成財団の理事長は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典さんです。

大隅さん自身はSNSをやっておらず、「グエー死んだンゴ」という言葉も知らなかったそうです。でも、こう話しています。

「ネットの力を思い知った。基礎科学への関心が高まり、若い人に浸透していったらうれしい」

80歳のノーベル賞受賞者が、22歳の若者が遺したネットスラングをきっかけに、基礎科学への寄付が集まったことに感謝している。これって、すごく素敵な話だと思いませんか。

インターネットの力

今回の出来事を見て、インターネットの力を改めて感じました。

たった8文字の投稿が、3億回以上表示され、数千万円の寄付を生む。一人の若者が遺したユーモアが、多くの人の心を動かし、がん研究や治療のために行動を起こさせる。

インターネットは時に批判されることもあります。誹謗中傷や炎上、デマの拡散など、負の側面も確かにあります。

でも、今回のような素晴らしいこともできるんです。見知らぬ人たちが、一つの出来事をきっかけに心を一つにして、社会に貢献する。これは、インターネットだからこそできることです。

中山さんの生き様

中山さんは、最期まで生粋のツイッタラーとしての生き様を遺しました。

「グエー死んだンゴ」という一見ふざけた言葉が、最大限の敬意を表したコミュニケーションになった。たった一言の投稿が、多くの人の心を動かすムーブメントになった。

22歳という若さでこの世を去ってしまったことは、本当に残念です。でも、「グエー死んだンゴ」とユーモアのある言葉を遺したことで、ただ悲しい死で終わることなく、自分らしい死を迎えられたのだと思います。

そして、その死が多くの人に影響を与え、がん研究や治療のための寄付という形で、未来の誰かを救うかもしれない。

死に様にその人の生き様が現れる、と言います。中山さんの場合、まさにそうだったんだと思います。

中山奏琉さんのご冥福を、心よりお祈りいたします。

成仏してクレメンス。

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この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。