メタバースの教室で学ぶ子どもたち~不登校支援に広がる新しい選択肢~

2267文字 Blog, シリーズ『学び』

夢中カレッジより

「学校に行きたくても行けない」そんな子どもたちにとって、新しい学びの場が生まれています。パソコンの画面の向こうに広がる仮想空間の教室で、全国各地の子どもたちがアバターとなって一緒に学んでいるのです。

夏休み明けは特に不登校が増えやすい時期と言われています。そんな中、注目を集めているのが「メタバース教室」という新しい形の学習支援です。

仮想空間に広がる「夢中カレッジ」

オンラインフリースクール「夢中カレッジ」では、メタバース(仮想空間)上に教室が設けられています。パソコン画面上に2次元のゲームのような世界が広がり、子どもたちはアバター(分身)を操作して学園生活を送ります。

アバターは顔の形や髪型、服装を自由に選ぶことができ、自分らしい姿で参加できるのが特徴です。現実では人と話すのが苦手な子どもでも、アバターを通してなら自然にコミュニケーションが取れることもあるそうです。

実際の授業はどんな感じ?

取材された小学校高学年の教室では、大きな机を囲んでそれぞれが好きな席に座り、授業を受けていました。「100万円もらったら、お菓子に使うか、遊園地で遊ぶか、それとも別のものを買うか」という教員の問いかけに、子どもたちがそれぞれ意見を表明し、話し合う様子が紹介されています。

ここで大切なのは、顔を画面に表示するかどうか、マイク機能を使って話すかどうかも、全て個人の自由ということ。直接話せなくても、チャットで意見を伝えたり、「リアクションボタン」を押したりするだけでも十分に参加できる環境が整っています。

社会性を育む「SEL」への取り組み

「夢中カレッジ」では、社会と関わる力を育む「SEL(ソーシャル・エモショーナル・ラーニング)」に力を入れています。これは、自分や他者を知り、自己と他者の関係性に気付いたり、それを言葉にしたりすることを学ぶ教育手法です。

対面では難しい子どもも、仮想空間なら自分のペースで他者とのコミュニケーションを学んでいけるのが大きなメリットです。

一人ひとりのペースに合わせた工夫

教室の隣には「ひとりブース」が設けられています。「学校には行こうと思うけれど、教室には入りたくない」という状態は、オンライン上でも起こり得ます。そんな時は、このブースにアバターを座らせると、他のアバターから話しかけられない個人用の自習室として利用できます。

逆に、学年を超えて楽しめる「部活動」もあります。「マインクラフト」「アニメ」など共通の趣味を持つ子ども同士で交流したり、自分がやりたい新しい「部活」を作ったりすることも可能です。

出席認定も可能

希望する場合は、毎月学校に子どもの履修状況や活動の様子を報告して、出席認定を取得することもできます。認定は各校の校長先生の判断となりますが、90%以上の認定実績があるそうです。

中には「夢中カレッジ」で深めた学びをきっかけに、大学の総合型選抜(AO入試)を目指している生徒もいるとのことで、単なる「学校の代替」を超えた学習の場として機能していることが分かります。

全国から約60人が「通学」

現在、北海道から九州まで約60人の小中学生がこの仮想空間の教室に「通学」しています。物理的な距離に関係なく、同じ空間で学べるのはオンライン教育ならではの強みです。

様々な選択肢の一つとして

運営するワオフルの辻田寛明代表は「仮想空間で人に対して慣れていき、現実のフリースクールや学校に戻るステップにしてもいいし、通信制の学校に進んでもいい。もちろん、カレッジを活用し続けてもいい」と話しています。

これは非常に重要な視点だと思います。メタバース教室が「学校復帰のための準備」でも、「新しい学習スタイル」でも、どちらでも構わないということです。

デジタル時代の新しい可能性

この取り組みから見えてくるのは、デジタル技術が単に「便利なツール」を超えて、これまで学習機会を得にくかった子どもたちに新しい可能性を提供していることです。

コロナ禍でオンライン授業が一気に普及しましたが、それは主に緊急対応としての側面が強いものでした。しかし「夢中カレッジ」のような取り組みは、オンラインの特性を活かした、より積極的な教育の形を示しています。

大切なのは選択肢の多様性

不登校の理由は子どもによって様々です。人間関係の悩み、学習についていけない不安、集団行動の苦手さ、体調の問題など、一人ひとり事情が異なります。

だからこそ、従来の学校教育、フリースクール、家庭学習、そしてメタバース教室といった多様な選択肢があることが重要なのです。どれか一つが正解ということではなく、その子に合った学び方を選べる環境が整うことが大切です。

まとめ

メタバース教室という新しい学習環境は、不登校の子どもたちにとって貴重な選択肢の一つになっています。アバターを通じたコミュニケーション、個人のペースに合わせた参加方法、全国の仲間との交流など、従来の教育では実現できなかった環境を提供しています。

もちろん、これがすべての子どもに適しているわけではありません。でも、「学校に行けない」ことで学習の機会を失ってしまう子どもたちにとって、新しい道筋を示している取り組みだと思います。

技術の進歩が、教育の可能性を広げていく。そんな未来の一端を垣間見ましたね(^^)

【参考】夢中カレッジ
https://college.wowfull.jp/

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この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。