ルンバのアイロボットが破産申請。イノベーターの栄枯盛衰から学ぶこと

今朝、衝撃的なニュースが飛び込んできました。
ロボット掃除機「ルンバ」を製造する米アイロボットが、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したというのです。
今日はこの件について、少し深く考えてみたいと思います。
アイロボットとは何だったのか
アイロボットは、1990年にMIT(マサチューセッツ工科大学)のロボット学者3人によって創業されました。コリン・アングル、ロドニー・ブルックス、ヘレン・グレイナーという優秀な頭脳が集まって作った会社です。
最初はNASAの探査ロボットや軍事用ロボットなど、様々な分野のロボット開発を手がけていましたが、なかなか収益化できずに苦しんでいました。実は、ルンバに行き着くまでに、14もの新規事業を計画しては断念することを繰り返していたそうです。
そして2002年、ついに「ルンバ」を発売します。
これが大ヒット。2006年には200万台、2017年には世界で1500万台を突破。一時期は、ロボット掃除機市場で世界シェア60%以上を誇る、圧倒的なリーダー企業でした。
「ロボット掃除機といえばルンバ」というポジションを確立し、この市場を創造した、まさにイノベーターだったのです。
何が起きたのか
そんなアイロボットに何が起きたのでしょうか。
一言で言えば、中国企業の猛追です。
2024年のデータによると、ロボット掃除機の世界出荷台数で、中国のRoborock(ロボロック)が初めてアイロボットを抜いて首位に立ちました。シェアは出荷ベースで16%、売上高ベースで22.3%。そして2位から4位も、エコバックス、ドリーミーテクノロジー、シャオミと中国企業が占めています。
つまり、トップ5のうち4社が中国企業という状況になっていたのです。
かつて圧倒的だったアイロボットは、今や5位に後退。市場シェアは着実に侵食され続けていました。
なぜ中国企業に負けたのか
では、なぜアイロボットは中国企業に負けたのでしょうか。
一つは、コストパフォーマンスです。中国企業は、アイロボットと同等かそれ以上の機能を持ちながら、より安い価格で製品を提供しました。アイロボットがブランド力と技術力を武器に高価格帯で勝負していた間に、中国企業は「良いものを安く」という戦略で市場を奪っていったのです。
二つ目は、技術革新のスピードです。中国企業は、AIやセンサー技術、ナビゲーションシステムなど、次々と新しい技術を搭載した製品を投入してきました。しかも、そのスピードが速い。アイロボットがじっくり開発している間に、中国企業は市場に新製品を投入していく。
三つ目は、サプライチェーンの問題です。アイロボットは2021年以降、サプライチェーンの逆風に直面していました。部品調達のコストが上がり、納期も遅れがちになる。一方、中国企業は国内に強固なサプライチェーンを持っていて、柔軟に対応できました。
そして四つ目は、市場の変化への対応の遅れです。ロボット掃除機市場は、もはや「あれば便利」という段階を過ぎて、「どれを選ぶか」という段階に入っていました。消費者は、価格、機能、デザイン、サポートなど、様々な要素を比較して選ぶようになっていたのです。
アマゾンによる買収失敗が決定打に
さらに追い打ちをかけたのが、アマゾンによる買収の失敗です。
2022年8月、アマゾンがアイロボットを約17億ドル(約2500億円)で買収すると発表しました。アイロボットにとっては、大手の傘下に入ることで資金力や販売網を手に入れ、中国企業との競争に勝つチャンスでした。
しかし、この買収はEU(欧州連合)の競争当局によって阻止されます。「アマゾンが自社のECサイト上で競合製品を締め出し、競争を阻害する可能性がある」という理由でした。
2024年1月、アマゾンは買収を断念。アイロボットは約140億円の契約解除金を受け取りましたが、失ったものの方が大きかった。
買収が成立していればアマゾンの資金力と技術力、そして販売網を活かして再建できたかもしれません。でも、規制当局の判断により、その道は閉ざされてしまいました。
そして今回の破産申請。中国のサプライヤーで貸し手でもあった深圳市杉川機器人に支配権を譲渡することになりました。
皮肉なことに、中国企業に敗れたアイロボットは、結局中国企業の傘下に入ることになったのです。
IT企業経営者として思うこと
この一連の流れを見て、IT企業を経営している立場として、いくつか考えさせられることがありました。
まず一つ目は、「先行者利益は永遠ではない」ということです。
アイロボットは、ロボット掃除機という市場を創造したパイオニアでした。でも、市場を作ったからといって、その市場を支配し続けられるわけではない。後発組が追いついてきて、追い越していく。これは、どの業界でも起こりうることです。
私たちのようなIT企業も、今は地域で一定のシェアを持っているかもしれません。でも、それに安住していたら、あっという間に追い抜かれてしまう。常に進化し続けないといけないんですね。
二つ目は、「技術だけでは勝てない」ということです。
アイロボットは、技術力では決して負けていませんでした。むしろ、ロボット工学の最先端を行く企業だったと言えます。でも、それだけでは市場で勝てなかった。
なぜか。コストパフォーマンスで負けたからです。スピードで負けたからです。サプライチェーンの効率で負けたからです。
技術が優れていても、それを適切な価格で、適切なタイミングで、適切な方法で届けられなければ、ビジネスとしては成立しない。
これは、私たちIT企業にも当てはまります。どんなに良いシステムを作っても、お客様が払える価格でなければ意味がない。どんなに優れた技術でも、お客様が求めるタイミングで提供できなければ価値がない。
三つ目は、「環境変化への適応力」の重要性です。
アイロボットは、サプライチェーンの問題や競争環境の変化に、十分に対応できませんでした。もっと早く、製造拠点を分散させるとか、価格戦略を見直すとか、できることはあったはずです。
でも、成功体験が邪魔をしたのかもしれません。「ルンバはブランド力があるから大丈夫」「技術力で勝っているから問題ない」という思い込みが、変化への対応を遅らせたのかもしれません。
私たちも、常に市場の変化に敏感でいないといけない。お客様のニーズは変わる、競合は増える、技術は進化する。その変化に、柔軟に対応していかないと生き残れません。
中小企業だからこその強みを活かす
ただ、一つだけ希望を持てることがあります。
それは、中小企業ならではの強みです。
大企業は、組織が大きい分、意思決定に時間がかかります。方向転換も簡単ではありません。アイロボットも、ある程度の規模になってから、スピード感を失っていったのかもしれません。
でも、私たちのような中小企業は違います。
お客様の声を直接聞ける。市場の変化をすぐに察知できる。そして何より、すぐに動ける。昨日まで「こうやっていた」ことを、今日から「ああやる」に変えることができる。
このスピード感と柔軟性は、中小企業の最大の武器です。
長崎という地域で、地元のお客様と直接向き合って仕事をしている私たちだからこそ、できることがある。大手には真似できない、きめ細かいサービスや、地域に根ざした提案ができる。
これからの戦い方
アイロボットの件から学ぶべきことは、たくさんあります。
でも、一番大事なのは、「謙虚でいること」かもしれません。
どんなに成功しても、どんなに技術力があっても、それに驕らない。常に危機感を持って、常に改善を続ける。お客様の声に耳を傾け、市場の変化を見逃さない。
そして、変化を恐れないこと。
「今までこうやってきたから」という理由で、変化を拒んではいけない。むしろ、積極的に変化していく。新しい技術を取り入れる、新しいサービスを試してみる、新しいやり方にチャレンジする。
もちろん、全てが成功するわけではありません。アイロボットも、14の新規事業を失敗させてから、ようやくルンバにたどり着きました。失敗は避けられない。でも、その失敗から学び、次に活かす。それが大事なんだと思います。
長崎のIT企業として
私たちは、長崎という地域で、IT企業を経営しています。
正直に言えば、アイロボットのような大企業と比べたら、本当に小さな会社です。でも、だからこそできることがある。
地域のお客様の顔が見える。困っていることがすぐに分かる。そして、すぐに対応できる。
このブログも、毎日300日以上更新してきました。大企業のような華やかなマーケティングはできないけど、泥臭く、愚直に、毎日発信し続けることで、少しずつお客様とのつながりを深めてきました。
アイロボットのニュースは、他人事ではありません。明日は我が身かもしれない。でも、恐れていても仕方がない。
大事なのは、今できることを、全力でやること。お客様の課題を解決すること。そして、常に学び続け、進化し続けること。
技術が進化し、競争が激しくなる時代だからこそ、私たちは「人間臭さ」を大事にしていきたい。お客様一人ひとりと向き合って、その人に本当に必要なものを提供する。そういう姿勢を、これからも大切にしていきたいと思います。
ルンバを作ったアイロボットは、確かに苦境に立たされています。でも、彼らが切り開いた道は、決して無駄ではありません。ロボット掃除機という市場を作り、多くの家庭に便利さを提供した。その功績は、誰にも否定できません。
私たちも、長崎という地域で、小さいながらも、お客様の役に立つ仕事を続けていきたい。そして、いつか振り返った時に「あの会社があったから、便利になった」「あの会社に頼んで良かった」と言ってもらえるような、そんな存在でありたいと思います(^^)
