捨てられるはずの和牛皮が高級革製品に!~「もったいない」から生まれたサステナブルブランド「アマネク」~

3274文字 Blog, シリーズ『学び』

「ステーキを食べ終わった後、牛の皮はどうなるんだろう?」そんなことを考えたことはありませんか?実は、高級な和牛のお肉を楽しんだ後、その貴重な皮の多くは廃棄されているのが現実です。でも、そんな「もったいない」状況に新しい風を吹き込んでいる会社があります。

全国4店舗で「元祖ステーキ重専門店 肉屋黒川」を展開する企業が立ち上げた革製品ブランド「アマネク(amaneq)」。このプロジェクトは、従来捨てられていた和牛の皮を高級レザー製品に変身させる、まさに「もったいない精神」を体現した革新的な取り組みなんです。

「アマネク」って何?なぜ始まったの?

「アマネク」という名前は「あまねく(広く、すべてにわたって)」から来ています。つまり、牛を「余すことなく活用する」という思いが込められているんですね。

これまで肉屋さんは「お肉を売るのが仕事」でした。でも、肉屋黒川を運営する企業は「牛一頭を無駄なく使いたい」と考えたんです。美味しいお肉を提供した後、残る皮も価値のある製品にできないかと。

そこで生まれたのが、食肉業界では初となる「完全トレーサブル革製品ブランド」です。つまり、お客様が買ったレザーバッグが「どこの農場で育てられた、どの牛の皮から作られたか」まで分かるという、今までにない透明性を実現しています。

どんな牛の皮を使っているの?

アマネクが使っているのは、島根県の熟豊ファームで育てられた「サステナブル和牛 熟」の皮です。この牛たちには特別な背景があります。

繁殖牛としての役目を終えた牛を再活用 一般的な和牛は26〜28ヶ月で出荷されますが、アマネクで使用される牛は平均月齢100ヶ月以上。子牛を産む役目を終えた繁殖牛を、特別なプログラムで再び肥育したものなんです。

地域の食品廃棄物を飼料に活用 さつまいも、豆腐粕、醤油粕、フルーツなど、地域で発生する食品副産物を発酵飼料として使用。これにより、食品廃棄物の削減にも貢献しています。

長期飼育による特別な皮質 通常より長く生きた牛の皮は、強靭で厚みがあり、独特の質感を持っています。これが高品質な革製品を作る秘訣なんですね。

日本の革産業が抱える「廃棄問題」

実は、日本の革製品製造では大きな問題があります。革製品を作る過程で、通常2〜3割の端材が発生し、年間約2トンもの革が廃棄されているんです。

廃棄による環境への影響 捨てられた革は主に焼却処分され、大量のCO2を排出します。また、革の製造には牛革1kg当たり17トンもの水が必要で、廃棄処理時には水質汚染の原因にもなります。

処分費用もかかる 廃棄された皮は、処分するのにもお金がかかります。本来価値のあるものを捨てるために費用を払っているという、まさに「もったいない」状況です。

アマネクは、こうした問題を「食肉産業と皮革産業の完全統合」で解決しようとしています。廃棄物をゼロにして、環境保護と経済価値創造を同時に実現する循環型ビジネスモデルです。

世界では「代替レザー」の開発が盛ん

環境意識の高まりと共に、世界では動物の皮を使わない「代替レザー」の開発が活発です。代替レザー市場は2024年の7.55億米ドルから2034年には14.3億米ドル(年平均成長率6.6%)に成長すると予想されています。

海外の代替レザーの例

  • フランス:レザースクラップをリサイクルした製品
  • イギリス:パイナップルの葉繊維から作る「パイナップルレザー」
  • アメリカ:マッシュルームの菌糸体から作るレザー

アマネクの独自性 こうした代替品が増える中で、アマネクは「最高級の天然レザーの質感を保ちながら、環境問題を解決する」というアプローチを取っています。新しい素材を開発するのではなく、既存の資源を無駄なく活用するという発想です。

「飼育から製品まで」の一貫体制が強み

アマネクの最大の特徴は、牛の飼育から食肉処理、そして革製品製造まで一貫して手がける「垂直統合モデル」です。

他社との違い 多くの革製品メーカーは、皮革を外部から購入して製品を作ります。でもアマネクは、自社で牛を育て、自社でお肉を販売し、自社で革製品を作る。だから品質管理もコスト管理も自由自在です。

トレーサビリティの実現 この一貫体制だからこそ、「この財布は、島根県のどの農場で育った、何月生まれの牛から作られました」という情報まで提供できるんです。これは革製品業界では画期的なことです。

環境と社会への貢献

アマネクの取り組みは、具体的にどんな効果をもたらしているのでしょうか?

数字で見る環境効果

  • 年間約2トンの革廃棄物を製品化
  • 焼却処分を回避することでCO2削減に貢献
  • 廃棄処理による水質汚染を防止
  • 食品副産物を飼料転換することで完全循環システムを構築

SDGs(持続可能な開発目標)との関連

  • つくる責任つかう責任:廃棄物を製品化する循環型生産
  • 気候変動対策:メタン排出を抑制する飼料の使用
  • 陸の豊かさも守ろう:持続可能な畜産業の実現

メディアや業界からの注目度

アマネクの取り組みは、ファッション業界の権威あるメディア「WWDJAPAN」をはじめ、多くのメディアで注目されています。

業界から評価されているポイント

  • 食肉業界とファッション業界の革新的な融合
  • 完全トレーサビリティシステムの先進性
  • 真の循環経済モデルの実現
  • 「もったいない精神」を現代ビジネスに活用した日本らしいアプローチ

今後の展開は?

現在、アマネクではバッグ、財布、名刺入れ、ステーショナリーなど、日常使いできる高級レザー製品の開発が進んでいます。

短期的な計画(1〜2年)

  • 計画中の製品ラインナップの本格的な市場投入
  • 国際的な品質認証の取得
  • ブランド認知度の向上

中長期的な展開(3〜10年)

  • 世界のラグジュアリー市場への参入
  • アジア太平洋地域から始まる海外展開
  • 和牛皮革の特性を活かした独自技術の開発

世界のラグジュアリー市場は2024年の972億米ドルから2030年には1,405億米ドルに成長すると予想されており、アマネクはその中で「日本発のプレミアムサステナブルレザー」としての地位確立を目指しています。

私たちが学べること

アマネクの取り組みから、私たちが学べることはたくさんあります。

「もったいない」の現代的活用 昔から日本にある「もったいない」という概念を、現代のサステナブルビジネスに見事に昇華させています。伝統的な価値観と最新のビジネスモデルの融合は、とても参考になりますね。

業界の境界を越える発想 「肉屋なのに革製品?」と思うかもしれませんが、この業界を越えた発想こそが新しい価値を生み出しています。自分の業界の常識にとらわれない柔軟な思考の大切さを感じます。

循環型ビジネスの可能性 一つの産業の廃棄物が、別の産業の貴重な資源になる。こうした循環型のビジネスモデルは、環境問題の解決と経済成長を両立させる理想的な形かもしれません。

まとめ

アマネクの取り組みは、単なる「エコな革製品」を超えた、新しい産業モデルの提案だと思います。年間2トンの廃棄物を高付加価値製品に転換し、完全なトレーサビリティを実現する循環経済モデルは、持続可能な未来への具体的な貢献として大いに評価されるべきでしょう。

「捨てるしかなかったものに新しい命を吹き込む」「業界の常識を超えて新しい価値を創造する」「環境への配慮とビジネスの成功を両立させる」。アマネクの挑戦は、私たちの仕事や生活にも多くのヒントを与えてくれそうです。

今度、美味しいステーキを食べる時には、その牛の皮がどこに行くのかも考えてみてください。きっと、食べ物や資源への見方が少し変わるかもしれませんね(^^)

前の記事 次の記事
この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。