【Web屋の考察】退職代行「モームリ」に学ぶ、爆速成長マーケティングと“法的な壁”

2026年2月3日、Web業界やスタートアップ界隈に衝撃のニュースが走りました。累計利用者数4万人を超え、退職代行業界で圧倒的なシェアを誇っていた「モームリ」の運営会社社長らが、弁護士法違反の疑いで逮捕されたというニュースです。SNSを主戦場にした見事なマーケティング戦略で急成長を遂げていただけに、私たちWeb屋にとっても「マーケティングの成功」と「コンプライアンスの限界」を考えさせられる非常に重い事例となりました。
今回はいちWeb業者の視点から、モームリがなぜ短期間でこれほどまでの支持を集めたのか、その鮮やかな集客術を分析しつつ、急成長の裏で直面した「法的リスク」について振り返ってみたいと思います。
感情に直撃する「ネーミングとブランディング」の勝利
モームリの最大の勝因は、何と言ってもその「ネーミング」にあります。「もうムリ」という、追い詰められた若者が心の中で叫ぶ言葉をそのままサービス名にする手法は、マーケティング的に見て極めて秀逸でした。従来の退職代行業者が「〇〇法律事務所」や「〇〇代行」といった硬い名前を付ける中、あえてポップでエモーショナルな名前にしたことで、ターゲット層であるZ世代の心理的ハードルを劇的に下げたのです。
また、広告戦略も斬新でした。渋谷や新宿の街中を明るいテーマソングと共に走る「アドトラック」は、SNSでの拡散を狙った計算ずくの施策です。トラックを見かけた人がSNSに投稿し、それがバズることで広告費以上の認知度を獲得する。この「SNS映え」を意識したブランディングは、まさに現代のWeb集客の王道を行くものでした。
「中の人」を見せる圧倒的な透明性とSNS戦略
退職代行という一歩間違えれば「怪しい」と思われがちなビジネスにおいて、モームリは「透明性」を武器にしました。代表自らが顔出しでYouTubeやメディアに繰り返し登場し、さらには実際の退職現場を映した動画を公開するなど、徹底して「どんな人が運営しているのか」を可視化したのです。
特にTikTokやX(旧Twitter)での発信力は凄まじく、新卒からベテランまで幅広い層に「退職に困ったら、まずはモームリのサイトかSNSを見てみよう」と思わせる「第一想起(真っ先に思い浮かぶブランド)」のポジションを確立しました。どんなWebサービスでも、ユーザーの不安を取り除くことがコンバージョン(成約)への最短距離であることを、彼らは体現していました。
24時間LINE対応という「爆速UX(顧客体験)」
モームリのUX設計も、現代のニーズを完璧に捉えていました。365日24時間、LINE一つで相談から依頼まで完結するスピード感は、精神的に追い詰められたユーザーにとって「救いの手」そのものでした。深夜にふと「明日もう行きたくない」と思った時、即座に返信が来るという安心感は、他社が真似できない強力な武器となっていました。
サイト内でも「成功率100%」や「全額返金保証」といった安心材料を前面に押し出し、後払い決済まで導入するなど、ユーザーが「今すぐ申し込む」ための導線がこれでもかと詰め込まれていました。Web制作の観点から見ても、これほど徹底した「ユーザーの悩み解決」に特化したサイト構成は、非常に参考になる部分が多かったです。
今回の逮捕で「何がいけなかったのか」を正しく理解する
ここで重要なのは、今回のニュースを見て「退職代行というサービス自体が違法なんだ」と誤解してはいけない、という点です。
退職代行サービスそのものは、本人の代わりに「退職の意思を伝える」という「使者(伝言役)」として機能する限り、法律上は問題ありません。実際に、労働組合や弁護士が運営する適法なサービスも数多く存在します。
では、なぜ「モームリ」の社長らは逮捕されたのでしょうか。焦点はサービスの内容ではなく、「弁護士との金銭のやり取り(キックバック)」にあります。報道によれば、モームリ側は依頼者を弁護士に紹介する際、1人につき約1万6,500円の紹介料を弁護士側から受け取っており、これを「広告費」などの名目で処理していた疑いが持たれています。弁護士法では、弁護士以外の者が「報酬を得る目的で弁護士を紹介すること(周旋)」を厳格に禁じています。
つまり、ビジネスモデルの根幹である「集客したユーザーを弁護士に流し、裏で紹介料をもらう」というお金の流れそのものが、弁護士法に抵触したということなのです。これが、単に「退職の意思を伝える」だけの健全な代行業務であれば、今回のような事態には至らなかったはずです。
Web屋として私たちが学ぶべき教訓
私たちWeb屋は、クライアントの集客を支援する立場として、常に「より多くのコンバージョン」を追求します。しかし、今回の事例が示す通り、どれほど優れたWeb戦略であっても、ビジネスモデルそのものの適法性を無視して突き進むことはできません。
特に「士業」や「許認可」が絡む領域では、Webの世界で一般的な「アフィリエイト」や「紹介料報酬」という仕組みが、法律の壁に激突することがあります。ユーザーにとってどれほど便利なサービスであっても、その収益構造が法律(今回の場合は弁護士法)の精神に反していれば、せっかくのビジネスに大きなダメージを与えてしまいます。
より高度化するデジタル社会において、私たちは「集客のプロ」であると同時に、クライアントのビジネスが「健全な土台」の上で成長していけるよう、法的なリスクにも敏感なパートナーでありたいものですね。
