ドムドムバーガー復活のニュースから考える、SNS時代の“愛される顧客関係”のつくり方

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ビジネスの世界では、時として復活劇が起こります。今回注目したいのは、日本で最も歴史のあるハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」です。先日、41カ月連続で既存店売上高が前年を上回ったというニュースが飛び込んできました。

私は知らないハンバーガー店だったので調べてみると、九州では福岡に1店舗しかないようですね。本州に多く所在するようです。

かつては「絶滅危惧種」とまで囁かれ、店舗数が最盛期の10分の1以下にまで減少した老舗ブランドが、なぜ今、若者からシニア層までを熱狂させているのか。その裏側には、単なる「懐かしさ」だけではない、緻密で人間味あふれる戦略が隠されていました。今回はドムドムの具体例から、私たちが今の時代に学ぶべき「顧客との関係づくり」について深掘りしてみたいと思います。

ドムドムハンバーガーとは:日本初のプライドと苦難の歴史

ドムドムハンバーガーの歴史を紐解くと、そこには日本の外食文化の歩みそのものが見えてきます。1970年、町田市に第1号店をオープンしたドムドムは、実はマクドナルドが日本に上陸するよりも前に誕生した「日本初のハンバーガーチェーン」です。

当時はダイエーグループの傘下にあり、全国のショッピングセンターを中心に展開。買い物帰りの家族連れにとって、「ドムドムでハンバーガーを食べる」ことは週末のささやかな、しかし特別な楽しみでした。最盛期の1990年代には全国に400店舗以上を構え、赤いロゴとゾウのマスコット「どむぞうくん」は、お茶の間の人気者だったのです。

しかし、2000年代以降は激しい競争にさらされます。マクドナルドやモスバーガーといった巨大資本の台頭、さらに親会社であるダイエーの経営不振が重なり、不採算店舗の閉鎖が相次ぎました。2017年に運営母体が現在の株式会社ドムドムフードサービスへと変わった際には、店舗数はわずか30店舗ほど。まさに「消えゆくブランド」というイメージが定着しつつあったのです。

そこからの快進撃は、まさに「異例中の異例」でした。なぜ彼らは息を吹き返したのでしょうか。その鍵は、ブランドの象徴である「どむぞうくん」の再定義にありました。

「どむぞうくん」がブランド力アップの象徴に

ドムドムの象のキャラクター「どむぞうくん」は、今や単なるマスコットの域を超え、一つの「ブランドアイコン」として確立されています。かつては子供向けのキャラクターという位置付けでしたが、現在はアパレルブランドのBEAMSとコラボレーションしたり、SNSで話題のグッズを展開したりと、驚くほど多角的な動きを見せています。

特に象徴的だったのは、どむぞうくんのぬいぐるみが発売直後に即完売し、フリマアプリで転売が相次ぐほどの騒動になったことです。これに驚いた運営側はただ増産するだけでなく、ファンとの対話を重視しました。「欲しい人に届くように」という誠実なメッセージを発信し続けたことで、ファンとの絆はより強固なものになったのです。

さらに公式ファンブックでは、あえて「没になったバーガー」の裏話や、苦境時代の自虐的なエピソードまで紹介されています。こうした「弱さ」や「裏側」を見せる姿勢は、完璧なブランドイメージを押し出そうとする大企業とは対照的です。この「人間臭さ」こそが、今の消費者がブランドに求めている“物語性”を生んでいるのではないでしょうか。

セルフレジ時代だからこそ目立つ「人の接客価値」

効率化とデジタル化が叫ばれる昨今、多くのファストフード店ではセルフレジの導入やモバイルオーダーの普及が進んでいます。もちろん、ドムドムでも効率化は進められていますが、彼らが何より大切にしているのは「接客という体験」です。

例えば、ドムドムの店舗に行くと、どこか温かみのある、地域密着型の空気感を感じることがあります。セルフ化が進むと、注文から受け取りまで一度も店員と目を合わせないことも珍しくありません。しかし、だからこそ「人の温もり」は希少価値を持ちます。

店員さんの元気な「こんにちは」や、マニュアル通りではない一言の気遣い。これらはデジタルでは代替できない「体験価値」です。ドムドムは、あえてこのアナログな領域を削りすぎないことで、顧客にとって「また来たくなる場所」としての地位を築いています。効率の追求の先に待っているのは「価格競争」ですが、体験の追求の先に待っているのは「ファン化」であるということを、彼らの姿勢は教えてくれます。

“ハンバーガー屋の和スイーツ”が爆売れした理由

商品戦略においても、ドムドムは独自の路線を突き進んでいます。その最たる例が、ニュースでも話題になった「かりんとう饅頭」のヒットです。

もともとは取引のある和菓子店から仕入れ、店内で揚げて提供するという、ハンバーガー店としては異色のメニューでした。これが人気YouTuberに取り上げられたことをきっかけに爆発的な人気を呼び、一時は品切れが続出する事態に。普通に考えれば「ハンバーガーに合うわけがない」と会議で却下されそうなアイデアですが、ドムドムはそれを実行に移しました。

この成功のポイントは、徹底した「意外性」と「納得感」のバランスにあります。「ハンバーガー屋なのに、なぜか揚げたての和菓子が食べられる」というギャップは、今のSNS時代において最高のコンテンツになります。人は「誰かに教えたい」と思う驚きを求めており、ドムドムはその期待に見事に答えているのです。ほかにも、高級食材であるソフトシェルクラブをまるごと挟んだ「丸ごと!!カニバーガー」など、見た目のインパクトと確かな美味しさを両立させたメニューが、常にSNSを賑わせています。

なぜ「無茶なメニュー」が生まれるのか?

ここで疑問が浮かびます。なぜドムドムでは、これほどまでに自由で独創的なメニューが次々と採用されるのでしょうか。その答えは、組織の内部にある独特のコミュニケーション文化にありました。

「女子会」で悩みを共有する社内文化

ドムドムの復活を支える藤﨑忍社長は、もともと専業主婦から居酒屋経営を経て社長に就任したという異色の経歴の持ち主です。彼女が大切にしているのは、組織の風通しの良さと、現場の「本音」です。

特筆すべきは、社員同士が「女子会」のような雰囲気で悩みや意見を出し合う場があることです。これは単なる馴れ合いの飲み会ではありません。役職や性別の壁を越え、フラットに「もっとこうしたら面白いのではないか」「今、現場ではこういうお客様の声がある」といった情報を共有するインフォーマルな対話の場です。

大企業になればなるほど、新しいアイデアは会議や承認フローの中で角が取れ、平凡なものになりがちです。しかし、ドムドムには「面白いことはまずやってみる」という心理的安全性が確保されています。このボトムアップの文化が、先述の「かりんとう饅頭」や、エッジの効いた企画を生み出す源泉になっているのです。

具体例から見える、今の時代に響く戦略

ここまで挙げてきた具体例を整理すると、ドムドムの成功には一貫した「勝ち筋」が見えてきます。

  • 象徴(どむぞうくん)の確立: 顧客が感情移入できるキャラクターを軸に、商品以外の接点を作る。
  • 体験価値の優先: 効率化一辺倒ではなく、人間味のある接客や「その場に行かないと味わえない体験」を重視する。
  • SNSを意識したフック: 思わず写真に撮りたくなる、誰かに話したくなる「意外性」のある商品開発を行う。
  • 風通しの良い組織: アイデアを否定せず、現場の熱量をそのまま形にする文化を醸成する。

これらは決して、多額の広告予算がなければできないことではありません。むしろ、自分たちのブランドの強み(あるいは弱みさえも)を理解し、それを面白がって顧客に共有する姿勢こそが重要なのです。

SNS時代の“逆張り戦略”とは何か

ドムドムが選んだ道は、業界の巨人である大手チェーンと同じ土俵で戦わない「逆張り」の戦略です。

圧倒的な「スピード・利便性・安さ」という機能的価値を極める大手に対し、ドムドムは「愛着・驚き・共感」という感情的価値にフルスイングしています。これをマーケティングの世界では「弱者の戦略」と呼ぶこともありますが、SNSが普及した現代においては、むしろこの「小さな熱狂」を積み重ねる方が、持続可能なブランド構築に近いと言えるかもしれません。

ファンは、自分が応援しているブランドが頑張っている姿を見て、さらに応援したくなります。ドムドムのSNSアカウント(特に社長や公式の発信)を見ていると、まるで「隣の家の面白いおじさん・おばさん」を応援しているような親近感があります。この「距離の近さ」こそが、SNS時代の最強の武器なのです。

仕事で活かせる視点:顧客の記憶にどう残るか

今回のドムドムの事例から私たちが学べる最大の教訓は、「顧客の記憶に残る体験をどう設計するか」という点に尽きます。

私たちの仕事においても、つい「他社がやっているから」「効率が良いから」という理由で、サービスを均質化させてはいないでしょうか。しかし、顧客との関係性が希薄になれば、最終的には価格やスペックでしか比較されなくなります。

一方で、独自性を持つブランドはたとえ規模が小さくても、顧客の中に「替えの効かない存在」として居場所を作ることができます。 「この会社は面白いことをしてくれる」「このお店に行くと元気がもらえる」 そう思ってもらうためのフックを、仕事のどこかに忍ばせておくことが大切です。

ドムドムハンバーガーの復活劇は、どんなに苦しい状況でも、やり方次第でファンは再び集まってくるという希望を見せてくれました。私たちも日々の業務の中で、お客様との接点に少しの「驚き」と「誠実さ」、そして「遊び心」を盛り込んでいきたいものですね。

こうした具体例を通じて、「なぜ売れるのか」「なぜ人の心を動かすのか」を考えるのは、とても面白く、そしてビジネスに生かせる学びになりますね(^^)

ちなみに、このドムドムハンバーガーもブログを書くまでは「ドムドムバーガー」と思っていました。ちょっと前のファンタジー展で書いたスキーマが働いたようです(笑)

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この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。