「買取大吉」の快進撃から学ぶ、後発企業が先駆者を超える3つの戦略

最近、街を歩いていると「買取大吉」という青い看板のお店をよく見かけませんか?長崎でも、いくつか店舗ができているのを目にします。実はこの「買取大吉」、リユース業界(中古品売買市場)で今、とんでもない勢いで成長している企業なんです。
どれくらいすごいかというと、わずか5年で売上が約15倍。2020年に約65億円だった売上が、2024年には約810億円になり、2025年にはさらに977億円に達する見込みです。店舗数も2024年7月に1,000店舗を突破し、現在は1,600店舗以上を展開しています。
IT企業を経営する立場として、この成長の裏側にある戦略が非常に興味深かったので、今日はそれを分析してみたいと思います。特に「後発企業がどうやって先駆者を追い抜いたのか」という点に注目すると、私たち地域のビジネスにも学べることがたくさんあります。
先駆者は別にいた
実は、小型店舗による買取ビジネスのフランチャイズ展開という仕組みを作ったのは、「買取大吉」ではありません。2000年前後から事業を展開している「おたからや」という会社が先駆者です。つまり、買取大吉は後発組なんです。
普通に考えれば、先に市場に参入して、ノウハウも顧客基盤も持っている先駆者の方が有利です。なのに、なぜ2010年創業の買取大吉が、ここまで急成長できたのでしょうか。
成功の鍵その1:「怪しさ」を排除したブランディング
従来の買取店は正直少し入りにくい雰囲気がありました。派手な看板、「高価買取」という強い文言、質屋に近いイメージ。特に女性や高齢者にとっては、一人で入るのにちょっと勇気がいる場所でした。
買取大吉は、ここを徹底的に変えました。青を基調とした清潔感のある店舗デザイン。タレントのIKKOさんを起用した親しみやすいCM。そして、接客スタイルも「鑑定士が上から目線」ではなく、「カフェのようなおもてなし」を重視しました。
結果として、主婦層や高齢者が「断捨離や遺品整理で出てきた物を気軽に持っていける場所」として認識されるようになったんです。実際、リピート率は約4割だそうです。これは買取業界ではかなり高い数字です。
成功の鍵その2:自社オークションによる高利益体質
ここが、ビジネスモデル上、最大の強みだと思います。
従来の買取店は、買い取った品物を外部の業者(卸売)に流していました。この場合、業者のマージンが抜かれるため、お客様への買取価格をあまり高くできませんでした。利益率も低くなります。
ところが買取大吉は、自社で「大吉オークション」というB2B(業者間)市場を運営しています。つまり、自分たちで売る場所を持っているんです。中抜きがないので、他社より10〜20%高く売却できます。その分、「他店より高く買い取る」ことが可能になり、成約率が飛躍的に高まりました。
これはIT業界でいう「プラットフォーム戦略」そのものですね。単なる買取店ではなく、市場(マーケットプレイス)を作ることで、圧倒的な優位性を築いたわけです。
成功の鍵その3:未経験でも失敗しない「遠隔サポート」
買取ビジネスの最大の課題は、「鑑定スキル」でした。ブランド品や宝石の価値を見極めるには長年の経験が必要です。これが参入障壁になっていました。
買取大吉は、この課題をITで解決しました。店舗のスタッフが商品をスマホやPCで撮影して本部に送れば、即座にプロの鑑定士が査定して価格を提示します。AIとプロのハイブリッド査定システムです。
これにより目利きができない未経験のオーナーでも、翌日から店を開けるようになりました。出店スピードが他社を圧倒したのは、このシステムがあったからです。
属人的なスキルをシステム化
買取大吉の戦略で特に感心したのは、「属人的なスキルをシステム化した」という点です。
従来の買取業は、鑑定士という「職人」の世界でした。それを、遠隔査定システムという「仕組み」で工業化し、誰でもできる高収益なサービス業に変えたんです。これは、まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例だと思います。
そしてもう一つ、「プラットフォーム戦略」です。自社オークションを作ることで、単なる買取店から「市場の運営者」に立場を変えました。これにより、利益率も競争優位性も、圧倒的に高まりました。
地域ビジネスへの示唆
買取大吉の成功から、私たち地域でビジネスをしている者が学べることは何でしょうか。
まず一つ目は、「後発でも勝てる」ということです。先駆者がいても、その業界の「不便さ」「不信感」「非効率」を解決すれば、逆転できる可能性があります。買取大吉は、「入りにくい」「属人的」「利益率が低い」という3つの課題を、「ブランディング」「IT」「自社プラットフォーム」で解決しました。
二つ目は、「ITによる標準化」の重要性です。職人技に頼っていたビジネスを、システムで再現できるようにすることで、急速な拡大が可能になります。これはどんな業界でも応用できる考え方です。
三つ目は、「顧客体験の再設計」です。買取大吉は、従来の買取店の「怖い」「入りにくい」というイメージを、「清潔」「安心」「親しみやすい」に変えました。同じ商品、同じサービスでも、見せ方・伝え方を変えるだけで、全く違う顧客層を開拓できるんです。
成長の裏側にあるリスク
もちろん、急成長にはリスクもあります。短期間で店舗が増えすぎたため、自社店舗間での顧客の奪い合い(カニバリゼーション)が懸念されています。また、店舗数が急増すると、接客品質やコンプライアンスの管理が難しくなるリスクもあります。
それでも、買取大吉の戦略は非常に参考になります。「強力な宣伝(認知度)×未経験でもできる仕組み(再現性)×伸びる市場(環境)」の3つを完璧に揃えたことで、短期間での業界首位奪取を成し遂げました。
これらのことから自社に取り入れられるものについて考えるのも良いと思います(^^)
