3COINSの成功から学ぶ企業文化~「ノー」と言わない経営が生み出すイノベーション~
最近話題になっている3COINSの急成長について、興味深い記事を読みました。
成長の秘訣は商品力だけでなく、社員が生き生きと働く「自由な企業風土」にあるという内容で、特に「企画案には基本的にノーとは言わない」という経営方針に注目してしまいました。
現代の企業経営において、とても参考になる事例だと思います。
毎月700-800種類の新商品を生み出す仕組み
3COINSでは「バイヤー」と呼ばれる商品企画担当者が約20人在籍し、毎月700~800種類もの新商品を送り出しているそうです。
この数字だけでも驚きですが、さらに驚くのは「企画案も基本的に『ノー』とは言われない」という社内文化。上司は助言に徹し、商品企画は「何でもありで、基本的に担当者に任せている」とのこと。
これは、Googleが提唱する「心理的安全性」の概念と非常に近い考え方だと思います。失敗を恐れずに新しいアイデアを出せる環境があるからこそ、継続的なイノベーションが生まれるのでしょう。
記事で紹介されていたミニトイカメラ(2750円)も、そんな自由な環境から生まれたヒット商品の一つ。指でつまめるほどの大きさなのに写真が撮れるという、確かに「え、これで撮れるんですか」と驚いてしまうような商品です。
興味深いのは、こうした商品が生まれる背景には「4週間MD(マーチャンダイジング)」という仕組みがあることです。1ヶ月単位で商品を売り切ることで、失敗のリスクを最小限に抑えながら、多数の実験を可能にしている。これは、IT業界でよく使われる「アジャイル開発」の考え方に近く、小さく早く試して改善するという現代的な手法を小売業に応用した例と言えるでしょう。
「拝啓社長殿」制度の面白さと日本企業への示唆
特に印象的だったのが「拝啓社長殿」「拝啓事業部長殿」という提案制度です。
年2回、アルバイトを含む全社員が社長や事業部長に自由にアイデアを提案できる仕組み。創業者が現場の意見を取り入れるために始めたそうですが、これは本当に素晴らしい制度だと思います。
多くの日本企業では、年功序列や上下関係の厳しさから、現場の声が上層部に届きにくい構造になっていることが多いです。特に「忖度文化」や「長いものには巻かれろ」的な考え方が根強く残っている組織では、革新的なアイデアが生まれにくい傾向があります。
しかし、3COINSのこの制度は、アルバイトの方も含めて全社員が対象というのが、本当の意味での「現場重視」を表しています。実は、最前線でお客様と接している店舗スタッフこそが、最も貴重な市場情報を持っているケースが多いのです。
この仕組みは、リモートワークが普及した現代においても非常に重要な意味を持ちます。物理的な距離があっても、定期的に全社員の声を吸い上げる仕組みがあることで、組織の一体感を維持し、現場の知見を経営に活かすことができるからです。
成果主義の徹底ぶりと実装の難しさ
そして、成果を上げれば賞与で報いるという仕組みも興味深いものでした。
半期で最大数百万円から1000万円という賞与は、確かに給与水準が決して高くないアパレル業界では破格です。バイヤーの賞与は企画した商品の売り上げや粗利、最終処分の商品の比率などを加味して決まるそうで、非常に明確な成果指標があります。
このような明確な成果主義は、実は多くの企業が導入を試みて失敗している分野でもあります。失敗する主な理由は以下の通りです:
- 評価指標の曖昧さ:何をもって成果とするかが不明確
- 短期的思考の助長:長期的な価値よりも短期的な数字を追求してしまう
- チームワークの破綻:個人成果を重視しすぎて協調性が失われる
- 公平性への疑問:評価プロセスが不透明で不満が生まれる
しかし、3COINSの場合は「売り上げや粗利、最終処分の商品の比率」という複数の指標を組み合わせることで、単純な売上至上主義に陥らない工夫をしています。最終処分の比率を含めることで、売れない商品を作るリスクも評価に反映し、バランスの取れた商品企画を促しているのです。
また、社内インフルエンサーとしてSNSで発信する社員には、フォロワー数に応じて手当を支給するという制度も注目に値します。SNSでの発信は炎上リスクもあるため、多くの企業では制限をかけがちですが、最低限の研修をするだけで運用を社員に任せているというのも、信頼関係の表れだと感じます。
これは、従来の「リスクを避ける経営」から「リスクを管理しながら挑戦する経営」への転換を示している好例だと思います。
「べた平等」ではなく「働きに応じて平等」
パルの社長の「うちはいわゆる『べた平等』ではなく、『働きに応じて平等』だ」という言葉も印象的でした。
加点主義でどんどん昇給・昇進していくので、社員が自主性を出しやすいという仕組み。ただし、任された責任の大きさに合わせて成果は厳しく問われ、同じポジションでも社員間で給与総額の差が開くという厳しさもあります。
それでも現場の声として「がんばった分だけ目に見える形で返ってくるので、やりがいは大きい」という意見が紹介されていて、適切に運用されれば非常に効果的な制度だということが分かります。
自由な文化を支える信頼関係
こうした自由な企業文化が機能するためには、経営陣と社員の間に深い信頼関係があることが前提だと思います。
「ノー」と言わない経営は、一歩間違えれば収拾がつかなくなるリスクもあります。でも、3COINSの場合は、新卒社員がまず店舗の販売員としてキャリアをスタートさせることで、商売の基本をしっかりと身につけさせているという基盤があります。
また、1ヶ月単位で商品を売り切る「4週間MD(マーチャンダイジング)」という仕組みにより、試行錯誤の回数を増やし、得られた教訓を次の開発に活かすという好循環も回っています。
小さな組織でも活かせるヒントと具体的実装方法
3COINSのような大企業の事例を見ると「うちのような小さな会社では無理」と思ってしまいがちですが、実は規模の小さな組織の方が、こうした文化を作りやすい面もあると思います。
段階的な導入アプローチ
フェーズ1:心理的安全性の確立(1-3ヶ月)
- 週1回の「何でも言える時間」を設ける
- 批判や否定を禁止したブレインストーミングの実施
- 失敗を責めるのではなく、学びに変える文化の醸成
フェーズ2:提案制度の導入(3-6ヶ月)
- 月1回の「アイデア提案会」を開催
- 提案に対する評価基準を明確化
- 小さな改善でも表彰する仕組みの構築
フェーズ3:成果連動制度の導入(6-12ヶ月)
- 明確で測定可能なKPIの設定
- 成果に応じたインセンティブ制度の導入
- 定期的な評価とフィードバックの実施
業界別応用例
飲食業の場合
- メニュー開発への現場スタッフの参画
- お客様満足度と連動した評価制度
- SNS発信での集客効果測定と報奨
製造業の場合
- 改善提案制度の拡充
- 品質向上や効率化への貢献度評価
- 安全性向上への取り組み評価
重要なのは、組織の規模や業界に関わらず「社員の声を聞く姿勢」と「成果を適切に評価する仕組み」を持つことです。
自由には責任が伴う
もちろん、自由な文化には必ず責任が伴います。
3COINSの事例でも、任された責任の大きさに合わせて成果は厳しく問われているという記述がありました。自由だからといって何をしても良いわけではなく、結果に対する責任は明確に求められています。
このバランスが取れているからこそ、自由な文化が機能しているのだと思います。
イノベーションが生まれる土壌
結局のところ、イノベーションが生まれるかどうかは、それを支える企業文化や組織風土によるところが大きいのかもしれません。
「ノー」と言わない文化、現場の声を大切にする姿勢、成果に対する適切な評価、そして失敗を恐れずチャレンジできる環境。これらが揃った時に、ミニトイカメラのような「え、これで撮れるんですか」と驚かれるような商品が生まれるのでしょう。
私たちも、普段の業務の中で「これは無理だろう」「前例がないから」といった理由で新しいアイデアを否定していないか、改めて振り返ってみる必要があるかもしれませんね。
まとめ:持続可能なイノベーション文化の構築
3COINSの成功事例は、商品開発だけでなく、組織運営や企業文化の面でも多くの学びを与えてくれます。
特に「基本的にノーとは言わない」という姿勢は、イノベーションを生み出すための重要な要素だと感じました。もちろん、それを支える信頼関係や責任感、そして適切な評価制度があってこその話です。
長期的な持続可能性への考察
ただし、このような文化が長期的に持続可能かどうかは、以下の要因にかかっていると考えられます
- 人材採用への影響:自由な文化を求める優秀な人材を引きつけられる一方で、明確な指示を求める人材には不向きかもしれません
- 組織規模拡大への対応:現在の文化を維持しながら組織を拡大できるかが課題
- 市場環境変化への適応:競合他社の追随により、差別化要因が薄れる可能性
- 経営陣の交代リスク:創業者の理念を次世代にどう継承するか
時代の変化と組織文化
デジタル変革、働き方改革、Z世代の価値観変化など、現代の企業を取り巻く環境は急速に変化しています。このような時代において、3COINSのような「自由で創造的な企業文化」は、優秀な人材を引きつけ、持続的な成長を実現するための重要な要素となるでしょう。
どんな規模の組織でも、少しずつでもこうした要素を取り入れることで、より良い職場環境と成果を生み出せるのではないでしょうか。
重要なのは完璧を目指すことではなく、今できることから始めて、継続的に改善していく姿勢です。3COINSの事例を参考に、皆さんの組織でも「ノー」と言わない文化の第一歩を踏み出してみませんか (^^)