コピペで感染!?「Ctrl+V押してください」にご注意!~新手の詐欺「ClickFix攻撃」~
最近、Webサイトを見ていて「画面が正常に表示されません。Ctrl+Vを押してください」といった指示が表示される現象があるようです。一見、技術的なトラブルを解決するための親切な案内に見えるかもしれませんが、実はこれ、「ClickFix攻撃」と呼ばれる新手のサイバー攻撃の可能性があります。日経新聞でも取り上げられるなど、最近急速に注目を集めているこの攻撃手法について、今回は詳しくご紹介したいと思います。
ClickFix攻撃って何?
「ClickFix(クリックフィックス)」攻撃とは、Webサイト上で「問題を解決するため」という名目で、特定のショートカットキーを押すよう指示してくる攻撃手法です。

こんなイメージですが、英語バージョンなど色々パターンはあるようです
典型的な流れはこんな感じです
- Webサイトにアクセスすると「エラーが発生しました」などの表示が出る
- 「この問題を解決するには、Ctrl+Vを押してください」といった指示が表示される
- 指示に従ってキーを押すと、実は悪意のあるコマンドが実行されてしまう
- 気づかないうちにマルウェアに感染したり、個人情報が盗まれたりする
恐ろしいのは、画面に指示が表示された時点で、すでにクリップボード(コピー&ペーストで使う一時的な保存領域)に悪意のあるコマンドがセットされていることです。つまり、「Ctrl+V(貼り付け)を押すだけ」で、すぐに攻撃が実行される状態になっているんです。
なぜ引っかかってしまうのか?
この攻撃には巧妙な心理トリックが隠されています。
技術的なトラブルへの不安 また、「エラーが発生しました」「正常に表示されません」といったメッセージが出ると、多くの人は「早く直したい」という気持ちになります。特にパソコンに詳しくない方は、「言われた通りにやれば解決するんだろう」と思って、指示に従ってしまいがちです。
CAPTCHAに慣れてきた現代人 普段、Webサイトにログインする時に「歪んだ文字を読んで入力してください」とか「信号機の画像を選んでください」といった指示に従うことがありますよね。これらは「CAPTCHA(キャプチャ)」と呼ばれるもので、ボットではなく人間であることを証明するためのテストです。
私たちは日常的に、こうした「画面の指示に従って何かを操作する」ことに慣れています。そのため、「Ctrl+Vを押してください」という指示が出ても、つい反射的に従ってしまう可能性があるのです。
実は「人間の脆弱性」を狙った攻撃
従来のサイバー攻撃の多くは、ソフトウェアの脆弱性(セキュリティホール)を狙ったものでした。しかし、ClickFix攻撃は技術的な脆弱性を突くのではなく、WindowsやMacに標準で用意された正常な機能を悪用します。
つまり、これは「人間の脆弱性」を狙った攻撃なんです。技術的な防御では完全に防ぐことが難しく、ある意味では従来の攻撃よりも厄介と言えるかもしれません。
証券口座への攻撃にも使われている
さらに深刻なのは、この手法が証券口座を狙った不正取引にも悪用されているという報告があることです。
もし意図的ではなかったとしても、利用者自身がコマンドを実行してしまった場合、金銭的な被害が生じても補償を受けられない可能性があります。「騙された」と言っても、形式的には「自分で操作した」ことになってしまうからです。
身を守るための対策
では、どうすればこの攻撃から身を守ることができるでしょうか?
1. 突然の「操作指示」は疑う Webサイトで突然「Ctrl+V」や「Ctrl+C」、「Ctrl+Shift+I」などのショートカットキーを押すよう指示された場合は、まず疑ってください。正常なWebサイトが、こうした操作を求めることはほとんどありません。
2. ファイルエクスプローラーでの操作指示にも注意 最近では、「ファイルエクスプローラーのアドレスバーに特定のコマンドを入力してください」といったパターンも出現しているそうです。こうした指示も非常に危険です。
3. 信頼できるサイトかどうか確認 そもそも、アクセスしているサイトが信頼できるかどうかを確認することも重要です。URLをよく見て、公式サイトかどうかをチェックしましょう。
4. ウイルス対策ソフトを最新に保つ 完全な防御は難しいとはいえ、ウイルス対策ソフトを最新の状態に保つことで、一定の防御効果は期待できます。
パソコンの自由度とリスクのバランス
パソコンはスマートフォンと比べて自由度が高く、様々なことができる便利なツールです。でも、その自由度の高さが、同時にリスクも生み出しています。
知識を持って使うことの重要性 「この操作をすると何が起こるのか」「このコマンドは安全なのか」といったことを、ある程度理解しながらパソコンを使うことが大切です。全てを理解する必要はありませんが、「よく分からない操作はしない」という基本原則は守りたいものです。
「便利さ」と「安全性」の両立 ClickFix攻撃のような手法は、私たちの「便利さを求める気持ち」や「問題を早く解決したい気持ち」を悪用します。でも、少し立ち止まって「本当に安全な操作なのか」を考えることで、多くのリスクは避けることができるはずです。
組織としての対策も重要
個人だけでなく、企業や組織としても対策が必要です。
従業員への教育 定期的にセキュリティ研修を実施し、最新の攻撃手法について情報共有することが重要です。ClickFix攻撃のような「人間の心理を狙った攻撃」については、特に注意喚起が必要でしょう。
報告しやすい環境づくり もし怪しい指示に従ってしまった場合、早めに報告してもらえるような環境を作ることも大切です。「怒られるかも」と思って隠してしまうと、被害が拡大する可能性があります。
まとめ
ClickFix攻撃は、従来のサイバー攻撃とは異なり、技術的な知識よりも「人間心理の理解」が防御の鍵となる新しいタイプの脅威です。
大切なのは、「画面の指示だからといって、何でも従わない」ということ。特に、突然ショートカットキーの操作を求められた場合は、一度立ち止まって「本当に安全な操作なのか」を考えてみてください。
技術は日々進歩していますが、それと同時に新しい脅威も生まれ続けています。でも、基本的な注意を怠らず、少しの疑いの心を持つことで、多くのリスクは避けることができるはずです。