アルバニアに「AI閣僚」誕生!~汚職撲滅を目指す驚きの実験~

2580文字 Blog, シリーズ『学び』

「AIが政府の閣僚になる」なんて、SF映画の話だと思っていませんか?ところが、バルカン半島の小国アルバニアで、まさにその現実が始まりました。2025年9月、ラマ首相が「ディエラ」(アルバニア語で「太陽」)というAI閣僚を任命し、公共調達の監督を任せるという前代未聞の試みに踏み切ったのです。

アルバニアってどんな国?

まず、アルバニアという国について少し紹介しましょう。人口約240万人のこの国は、モンテネグロ、コソボ、北マケドニア、ギリシャに囲まれ、西側はアドリア海に面しています。1991年に共産主義政権が崩壊した後、長らく汚職問題に悩まされてきました。

深刻な汚職の現状 透明性国際機関の汚職認識指数では180か国中80位と、残念ながら汚職が深刻な問題となっています。政府高官の92%が「政治が最も汚職の多い分野」と認識しているほどで、政治、司法、医療分野で汚職が蔓延しているのが現状です。

EU加盟への野心 それでもアルバニアは2030年までのEU加盟を目指しており、現在6つの交渉クラスターのうち4つが開始されています。汚職問題の解決は、EU加盟実現のための重要な課題なのです。

なぜAI閣僚を起用したのか?

ラマ首相がAI閣僚「ディエラ」を任命した理由は明確です。「AIなら縁故採用はしない」「人間のような私利私欲がない」という汚職根絶への期待からです。

ディエラの役割

  • 公共調達(政府が民間企業と契約する際の入札)の全責任を負う
  • 入札プロセスの監督と決定権限を持つ
  • アルバニアの伝統衣装を着た女性の姿をしたAIアシスタント

すでに今年1月から電子政府プラットフォーム「e-Albania」で仮想アシスタントとして活動し、36,600件のデジタル文書処理と約1,000のサービス提供を行ってきた実績があります。

この施策は「世界初」か

ウクライナが先駆け 実は、ウクライナが2024年5月1日に「ヴィクトリア・シー」というAI報道官を外務省の公式な役職に任命しており、これがアルバニアより16か月も早い事例でした。

UAEにはAI担当大臣も さらに遡ると、UAE(アラブ首長国連邦)は2020年にオマール・スルタン・アル・オラマ氏をAI担当国務大臣に任命しており、AI専門の閣僚ポストとしてはこれが真の世界初でした。

それでもアルバニアの独自性 ただし、アルバニアのディエラは「実際の意思決定権限」をAIに委譲する点で画期的です。他国のAIが分析や推薦ツールとして使われているのに対し、アルバニアは「AI主導の統治」を目指している点で独特です。

世界のAI活用政府事例

アルバニア以外でも、世界各国でAIを活用した政府サービスが広がっています。

エストニア:デジタル統治の先駆者 エストニアは2019年から「KrattAI戦略」を展開し、2025年1月には政府サービスの100%をデジタル化を達成しました。税務詐欺検知、交通管理、教育システムなどにAIを統合しています。

シンガポール:スマート国家戦略 「スマート・ネーション2.0」戦略のもと、150以上のAI研究開発チームを設立。詐欺防止AIシステム「ScamShield」や交通最適化システムなど、市民生活に直結するAIサービスを展開しています。

UAE:2031年までに完全AI政府を目指す UAEは2031年までに「世界初の完全AI政府」を目指し、130億ドルの投資を行っています。ドバイAIラボでは都市サービスと運営のAI統合を先駆的に進めています。

AI活用がここまで進んでいる驚き

正直なところ、AIが実際の政府の意思決定を行うレベルまで技術が進歩していることには驚きを隠せません。

技術の急速な進歩 わずか数年前まで、AIは「将来的には可能かもしれない技術」という印象でしたが、今やChatGPTをはじめとする生成AIが日常的に使われ、政府業務にまで活用されるようになりました。

人間の判断を代替する段階へ 従来のAI活用は「人間の判断を支援する」レベルでしたが、アルバニアの事例は「人間の判断を代替する」段階に入ったことを示しています。これは技術的にも社会的にも大きな転換点です。

小国ならではの機動力 大国では難しい大胆な実験も、アルバニアのような小国なら実現可能。人口240万人という規模だからこそできる「国全体での社会実験」ともいえます。

リスクと課題も大きい

一方で、AI閣僚の導入には大きなリスクも伴います。

技術的リスク

  • アルゴリズムのバイアス
  • システムの操作可能性
  • 技術的脆弱性

民主的統治の観点

  • 人間による監督不足
  • 説明責任の問題
  • 民主的プロセスの侵食

AI専門家の61%が「AIの政治参加が選挙に悪影響を与える可能性」を懸念しているのも事実です。

日本への示唆

この事例は、日本にとっても他人事ではありません。

デジタル庁の取り組み 日本でもデジタル庁が設立され、行政のデジタル化が進んでいますが、AIの活用はまだ限定的です。アルバニアの実験から学べることは多いでしょう。

汚職防止の観点 日本でも公共調達における透明性向上は重要な課題です。AIの客観性を活用した入札システムは、検討に値するアプローチかもしれません。

技術立国としての対応 AI技術で世界をリードしたい日本としては、アルバニアのような先進的な実験にも注目し、技術開発や法制度整備に活かしていく必要があります。

まとめ

アルバニアの「AI閣僚」誕生は、AI技術が政府運営のレベルまで進化したことを示す象徴的な出来事です。完全に「世界初」ではないものの、実際の意思決定権限をAIに委譲する点では最も野心的な実験といえるでしょう。

成功すれば汚職を排除しながら効率的な政府運営を実現できますが、リスクも相当大きく、慎重な監視が必要です。この小さなバルカン諸国の実験が、21世紀のAI統治における「画期的モデル」となるか「警告的事例」となるか、世界が注目しています。

私たち日本も、この実験から多くを学びながら、AI時代の政府のあり方を考えていく必要がありそうですね。

前の記事
この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。