WBC2026で起こった誹謗中傷と近藤選手の言葉

2975文字 Blog, シリーズ『学び』

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)2026。日本中の期待を背負って戦った侍ジャパンでしたが、準々決勝で強豪ベネズエラに惜しくも敗れ、ベスト8という結果で幕を閉じました。最後まで諦めずに白球を追う姿には本当に感動しましたし、応援していただけに悔しい気持ちも大きいですが、何よりベネズエラ代表の投打にわたる圧倒的な力強さには脱帽するしかありませんでした。素晴らしい戦いを見せてくれた選手たちには、「お疲れ様でした」「そして多大なる興奮をありがとう!」と伝えたいですね。

しかし、こうした大きな大会の裏側で、どうしても見過ごせない問題が再び浮き彫りになっています。それは、敗戦後の選手たちに向けられる「ネット上の誹謗中傷」です。今回は、スポーツを愛する一人のファンとして、そしてWebという世界に身を置く人間として、この問題の深刻さと私たちが持つべき「言葉の作法」について、深く掘り下げてみたいと思います。

選手たちは誰よりも「自らのミス」を分かっている

試合後、特定のプレーや選手に対して、厳しい言葉がネット上に溢れることがあります。ですが、少し冷静に考えてみてください。どのプレーが敗因だったのか、どこでミスをしてしまったのか……それを一番痛感し、悔やみ、分析しているのは、当の選手本人やチーム関係者です。彼らはその道で生きていくと決めた「プロ」であり、死に物狂いで準備をし、試合をしてきた当事者です。

私たちファンが外側から「なぜあそこで打てないんだ」「あのプレイが余計だった」と口を出すのは自由です。ですが、それが相手の人格を否定したり、執拗に攻撃したりするような「誹謗中傷」へと変わってしまった瞬間、それは応援でも批判でもなく、ただの暴力になります。応援の言葉が10あったとしても、たった1の鋭いナイフのような言葉に心が飲み込まれてしまう……それが人間の心理なのです。過去には、こうした言葉の暴力によって命を絶ってしまったタレントの方もいます。言葉は、時に物理的な凶器よりも深く、鋭く人を傷つけることを忘れてはいけません。

「その場で消える言葉」と「SNSに刻まれる言葉」の決定的な違い

ここで、私たちは「批判」と「誹謗中傷」、あるいは「楽しむための文句」の線引きを整理する必要があります。スポーツ観戦において、リビングや球場、居酒屋などで、気心の知れた友人たちと「あー!何やってんだよ!」と叫んだり、愚痴をこぼしたりするのは、私は健全なエンターテインメントの一部だと思っています。これらはいわば「その場で消化される言葉」であり、感情の発散として機能し、本人に届くこともありません。ファンが一喜一憂して明日への活力に変えるための、大切なプロセスでもあります。

一方で、匿名掲示板やニュースサイトのコメント欄、まとめサイトなどに書き込まれる言葉は、文字として「形に残る言葉」です。本人が直接目にする可能性は低いものの、負の感情が増幅・拡散されやすく、ネット上の空気感を悪化させるリスクを孕んでいます。

そして最も問題であり、かつ危険なのが、SNSの本人アカウントに対して直接送りつけられるリプライやDMです。これは選手の精神をダイレクトに削り、選手生命を脅かすほどの影響力を持つ、極めて危険な行為です。「プロなんだから厳しい意見も受け止めるべきだ」という理屈もありますが、本人が一番分かっているところに、さらに追い打ちをかけるような「叱咤」は基本的には必要ありません。プロはファンが楽しみ、お金を落としてくれることで成り立つ商売ですが、だからといってファンが選手の尊厳を傷つける権利まで買っているわけではないのです。

テクノロジーが「踏みとどまる一瞬」を作る

こうした誹謗中傷をなくすために、SNS運営側にもっとできることがあるはずです。数年前、海外の少女が「ReThink」という仕組みを開発したことが話題になりました。これは、AIが誹謗中傷の可能性が高いメッセージを検知した際、送信ボタンを押した瞬間に「この言葉は相手を傷つけるかもしれません。それでも送信しますか?」とアラートを出して再考を促すシステムです。

一時の感情で指が動いてしまう人たちに、ハッと我に返る「間(ま)」を作る。まずはこれだけで多くの悲劇が防げるはずです。さらに、内容の自動判別で明らかにひどい誹謗中傷となるものは、投稿すらできないようにすることが必要だと思います。もちろん、表現の自由や検知の精度という課題はあります。SNS運営側も、自由に使って楽しんでもらい、ユーザーを増やすことが目的ですから、その自由を奪うような壁を導入したくないという本音も分かります。

ですが、それが人を傷つけ、時に活動不能に追い込み、命を落とすような事態は絶対にあってはなりません。判別については難しい所ですが、現代のAI技術なら文脈や投稿の流れから「これが人格否定にあたるか」を高い精度で判定できるはずです。自動車メーカーが膨大なデータを収集して「衝突被害軽減ブレーキ」を進化させてきたように、Webの世界でも溢れるテキストデータを学習させれば、文面全体から悪意を読み取り、本人に届く前に処理する「安全装備」を実装することは十分に可能なはずです。

近藤選手の言葉に学ぶ、真のプロフェッショナリズム

今回の敗戦後、近藤健介選手がSNSにアップしたメッセージには、多くの人が心を打たれました。

「ファンの皆さんの期待に応えられず申し訳ありませんでした。もちろん結果はしっかり受け止めています。ただ、その言葉に『叱咤』があるのかどうかは、選手自身が一番分かります。たくさんの叱咤激励を選手は力に変えて、2026年シーズンも全力で頑張ります。応援よろしくお願いします」

この言葉の凄さは、「誹謗中傷はやめて」と直接的に抗議をするのではなく、「私たちは、送られてきた言葉が愛のある激励なのか、ただの攻撃なのか分かります」と優しく、しかし毅然と伝えた点にあります。立場上、すべてを真摯に受け止める姿勢を貫いたその心と言葉遣いは、本当に素晴らしいと感じました。

と同時に、日本のために、そして野球界のためにこれほどまでに心血を注いできた選手に、このような言葉を選ばせ、発信させてしまったという現実に、私は言いようのない悲しさを感じました。本来なら、彼らが受け取るべきは「感動をありがとう」という感謝の言葉だけで十分だったはずなのです。

頑張る人が正当に報われる世の中へ

今回のWBC敗退は残念な結果でしたが、彼らが挑んだ挑戦の価値が揺らぐことはありません。スポーツに限らず、何かに一生懸命に打ち込み、挑戦している人たちが、顔の見えない誰かの言葉によって深く傷つけられ、立ち止まってしまうようなことがあってはならないのです。

私たち一般ユーザーができることは、送信ボタンを押した前に一度だけ「これは相手に直接言うべき言葉か?」を問い直すこと。そしてWeb技術が、悪意から人を守る盾としてさらに進化していくこと。頑張っている人たちが、何の憂いもなくさらなる高みへと邁進していける。そんな優しく、フェアな世の中になっていくことを切に願っています(^^)

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この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

現在もWeb一筋で「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
大谷翔平選手、ちいかわ、ヒロアカの話は無限に話せます。
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。