なぜ人は共感するのか

「わかる!」

この一言が生まれた瞬間、その投稿はシェアされます。コメントが集まります。保存されます。

でも、なぜ人は「わかる」と感じるのでしょうか? 今日は共感の中でも、最も強力な「自分だけじゃなかった」という安心感について、深く掘り下げてみます。

人は、自分が変だと思われたくない

ある美容師さんが、SNSにこんな投稿をしました。

「お客様との会話、実は苦手です。何を話せばいいか分からなくて、いつも緊張してます。でも、お客様の髪型を作るのは本当に好き。」

この投稿には、普段の10倍のコメントがついたようです。

「私も接客業だけど、人と話すの苦手です」 「技術職なのに、コミュニケーション求められるの辛いですよね」 「わかります。でも仕事自体は好きなんですよね」

なぜこの投稿は、こんなに反応されたのでしょうか?

「自分だけかもしれない」という不安

私たちは日々、小さな不安を抱えています。

サービス業なのに人と話すのが得意じゃない自分。 朝起きるのが苦手で、毎日ギリギリまで寝ている自分。 子育てを楽しめない日がある自分。 仕事は好きだけど、会社の飲み会は行きたくない自分。

こういった「一般的にはこうあるべき」というイメージと、「実際の自分」のギャップ。

このギャップを、誰にも言えずに抱えている人は多いんです。「周りはちゃんとできているのに、自分だけができていない」と感じながら。

誰かが「私もです」と言ってくれた時の安堵

でも、誰かが先に「実は私も…」と言ってくれたらどうでしょう?

「あ、私だけじゃなかったんだ」

この瞬間、肩の力が抜けます。自分は変じゃなかった。おかしくなかった。そう思えるからです。

心理学では、これを「正常化」と呼びます。自分の感情や行動が「普通のこと」だと認識できた時、人は安心するのです。

ビジネスにおける「自分だけじゃなかった」の活用

この「自分だけじゃなかった」という安心感は、ビジネスでも強力に機能します。

例1: ある会計ソフトのマーケティング

従来のアプローチ: 「簡単に使える会計ソフトです。初心者でも安心!」

これを変えた新しいアプローチ: 「経理、苦手ですよね。領収書の整理、いつも後回しにしてしまう。確定申告の時期になると憂鬱になる。でも、それって普通のことなんです。多くの個人事業主が同じ悩みを抱えています」

後者の方が、圧倒的に反応が良かったそうです。なぜか?

「経理が苦手なのは、自分だけじゃなかった」と気づけたから。そして、「苦手でも大丈夫」と思えたから。

例2: ある育児用品メーカーのSNS

投稿A: 「〇〇の離乳食、栄養バランスを考えて作りました!」

投稿B: 「離乳食、手作りできない日ありますよね。疲れてる日は、レトルトでいいんです。完璧な親なんていません。子どもが元気ならそれでOK。そんな時に使ってもらえる離乳食を作りました」

投稿Bの方が、3倍以上のエンゲージメントを獲得しました。

「手作りできない自分はダメな親かも」と思っていた人たちが、「それでいいんだ」と思えたからです。

例3: ある英会話スクールの体験談

「私、英語を話すのが恥ずかしくて、ずっと避けてました。発音が変だと思われたくなくて。でも先生に『みんな最初はそうですよ。完璧に話せる人なんていません』って言われて、楽になりました」

この体験談を見た人は、「自分も恥ずかしいと思ってるのは普通なんだ」と気づきます。そして、「それでも始めていいんだ」と思えるのです。

「自分だけじゃなかった」を発信するコツ

では、どうすればこの「自分だけじゃなかった」という共感を生み出せるのでしょうか?

1. 「一般的にはこうあるべき」と「実際は」のギャップを言語化する

多くの人が感じているけど、口に出しにくいこと。それを先に言葉にするのです。

「営業マンは、人と話すのが得意なはず。でも実際は、毎回緊張してます」 「起業家は、リスクを恐れないはず。でも実際は、毎日不安です」 「親は、子どもを無条件に愛しているはず。でも実際は、イライラする日もあります」

このギャップを正直に語ることで、「あ、そう思ってるのは自分だけじゃないんだ」と伝わります。

2. 数字やデータで裏付ける

「実は、〇〇%の人が同じことを感じています」

こう伝えることで、「自分だけじゃない」という安心感がさらに強まります。

「会社員の68%が、月曜日の朝が憂鬱だと答えています」 「副業を始めた人の80%が、最初の3ヶ月で挫折しそうになったと回答しています」

データがあると、「やっぱり自分だけじゃなかった」と客観的に理解できます。

3. 複数の具体例を示す

一人の事例だけでなく、複数の人の声を紹介すると効果的です。

「Aさんは、プレゼンの前日は必ず眠れなくなります」 「Bさんは、クライアントにメールを送る前、何度も読み返してしまいます」 「Cさんは、会議で発言するとき、心臓がバクバクします」

いろんな人が同じように感じていると分かると、「やっぱり普通のことなんだ」と実感できます。

注意点:「あなただけじゃない」と言うだけでは不十分

ただし、「あなただけじゃないですよ」と言うだけでは、ビジネスにはつながりません。

大切なのは、その次です。

「あなただけじゃない。みんな同じように悩んでいる。でも、こうすれば前に進める」

この「解決の道筋」をセットで示すことで、共感が信頼に変わり、行動につながります。

先ほどの会計ソフトの例でいうと:

「経理が苦手なのは、あなただけじゃありません。でも、このソフトを使えば、1日15分の入力だけで完了します。経理が苦手な人のために作られたソフトです」

こう続けることで、「自分にもできるかも」と思ってもらえるのです。

「自分だけじゃなかった」は、スタートライン

「わかる!」という共感は、相手との距離を一気に縮めます。

でもそれは、信頼関係のスタートラインに過ぎません。

共感した後に、「だからこうすればいい」という具体的な価値を提供できるか。ここが勝負です。

あなたのお客様は、どんな「自分だけかも」という不安を抱えているでしょうか?

それを言葉にしてあげることが、共感の第一歩です。

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この記事を書いた人
T.kawano

T.kawano

宮崎生まれ、宮崎&長崎育ち。長崎西高、長崎大学経済学部卒。
在学中からWeb業に従事して約20年。人生の半分以上をWebに注いできました。

デザインからライティング、撮影、プログラミングまでやっており、専門家としてセミナーをしたり、Webでお困りの方の相談にも乗ってきました。

「話す・作るWebディレクター」として活動中。
器用貧乏を逆手に取り、ITの力を活用して少数精鋭の組織で動いています。

三児と一猫の父。趣味は「お笑い」「アニメ(狭く深く)」「バドミントンとそれに必要なトレーニング」
「優しく」「仕事ができ」「面白い」人間を目指して日々精進中。